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外国人技能実習生ニュース

外国人技能実習制度や協同組合、技能実習生送出機関に関するニュース・コラムです。

外国人技能実習生 失踪の実態

2015/07/29 NHK NEWS WEB

 

外国人が日本の企業などで働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」。発展途上国の人材育成や技術を伝えることが目的の制度ですが、事実上、人手不足の業種を支える労働力として、現在、全国で16万人以上が工場や農業、漁業、建設現場などで働いています。


ところが、いま実習生が、実習先の企業から突然、姿を消し、失踪するケースが急増しています。その数は、去年4800人余り、5年前に比べて4倍近くに上っているのです。相次ぐ失踪の実態とその背景について、取材班の1人、社会部・瀬古久美子記者が解説します。

 

失踪実習生を追跡

7月末の夜、私たちは、失踪した外国人技能実習生を追跡する民間の特別調査チームに同行して、茨城県の住宅街にある飲食店に向かいました。この飲食店には、夜になると失踪した実習生とみられる外国人が遠方から集まってくるという情報が寄せられていました。特別調査チームのメンバーは、元入国管理局職員や元警察官。情報が確認できれば入国管理局に通報します。

 

この日は、外国人がオートバイやタクシーで次々と集まってくる様子を遠目に監視していました。 この調査チームを作ったのは、実習生を企業などに紹介している「監理団体」です。 「監理団体」は来日した実習生をまず受け入れる民間の団体で、実習生は、監理団体から紹介された企業などで働く仕組みになっています。ところが、いま実習先の企業からの失踪が相次ぎ、企業からの信頼を失いかねないとして、独自に調査チームを作って行方を突き止めようとしているのです。 私たちがある企業に取材に訪れた際には、実習生に逃げられた企業からの情報をもとに、元実習生の郵便貯金の口座の動きを追跡し、本国に180万円余りを送金した形跡を見つけていました。

 

逃げられた企業は

調査チームは実習生に逃げられた企業を訪れ、聞き取りやアドバイスも行っています。関東地方の板金加工の会社では、実習を始めて2年半で、タイ人の実習生が突然姿を消しました。この会社の社長は、「時間をかけて一人前にしているのにその途中で失踪され、裏切られた気持ちだ」と話していました。

 

調査チームの聞き取りに対して社長は、「失踪の直前、仕事に集中していないようすが見られた」と説明しました。この会社では、ほかにも6人のタイ人の実習生を雇っていて、調査チームのメンバーは、これ以上、失踪者が出ないよう「知らない人間と頻繁に携帯電話などでやり取りしているようなことがあれば連絡をしてほしい」と話していました。

 

闇で仕事を探す元実習生

失踪した元実習生は、どうやって暮らしているのか。私たちは、その1人に接触することができました。

 

家族に仕送りをするために3年前、技能実習生として来日したという中国人の女性は、九州で働いていましたが、もともと賃金が低かった上、円安の影響で十分な仕送りができなくなり、去年、逃げ出したといいます。 女性は、「3年で30万元稼ぐのが来日の目的だった」と話します。30万元は、日本円に換算して来日当時は約360万円でしたが、円安が進んだ結果、約600万円にふくらみました。女性が実習生の時に受け取っていた給料は、手取りで月7万円ほどしかなかったといいます。実習先以外で働くことを禁じられている実習生では、3年で600万円を稼ぐのはとうてい無理で、逃げ出して、別の仕事を探すことにしたというのです。

 

女性は、スマートフォンのアプリを使って職探しをしていました。スマートフォンの画面には、中国語で「不法就労者」を意味する「黒工」の文字が並び、闇で仕事を探す人のための職業紹介の情報が多く掲載されていました。農業の仕事の募集では「本人確認が不要」と記されていました。


女性は、6月は仕事を掛け持ちし、給料は計約17万円に増えたということで、「お金が稼げなかったので不法就労者になるしかなかった。仕事がきつくてもやりたい」と話していました。

 

なぜ違法な元実習生を雇用

なぜ違法な元実習生を受け入れているのか。 在留期限が切れた元実習生を雇っていたとして摘発された農家が取材に応じました。

 

トマトや白菜を食品メーカーなどに納入しているこの農家は、収穫期となる夏や冬の時期は特に人手が足りず、元実習生を雇わざるを得なかったといいます。1人を雇ったところ、元実習生たちが長野県や広島県など全国各地から口コミで集まってきたといいます。 摘発を受けた後は、日本人の作業員2人を雇っていますが、厳しい作業の前に休みがちで、生産量を減らすことになりました。この農家は、「長年やってきた仕事だし、農業者として農業を守りたいという気持ちがある。不法就労の外国人がいなくなると生産量が今に比べて2割から3割まで落ちてしまうだろう」と話していました。

 

労働力不足の現実

こうした現状について、外国人技能実習制度に詳しい、首都大学東京の丹野清人教授は、「私たちの生活が、もう外国人抜きには考えられないところまできている。技能実習生を受け入れれば受け入れるほど、どうしても失踪者が増えていかざるをえないという構造の中に入っている」と話します。外国人に技術を伝えるという制度の目的と、労働力として頼りにしている現実との矛盾が問題の背景にあると指摘しています。

 

一部の業種では、失踪した元実習生を受け入れざるをえないほど、労働力不足が深刻化している現実があります。取材を通して、こうした日本の現状を見つめなおすことが求められていると感じました。