外国人技能実習生ニュース

外国人技能実習制度や協同組合、技能実習生送出機関に関するニュース・コラムです。

11.26 マニラ講演会で何を話し、何を期待するか?

2015/10/14 月刊人材ビジネス

 

  筆者は、技能実習法案についても「労働者派遣法と同じで適正な事業の運営と実習生の保護が重要なポイントだと思います」と強調したいと思いま す。マニラ講演が11月26日と決まり、約百人の現地エージェントの代表者たちが筆者のレクを受けることとなりました。席上、どんなことを述べるのか?問 答形式でその概要を紹介します。

   この原稿を執筆しているのは9月半ばであり、同法案が通常国会の会期末までに成立したことを前提に述べることをお断りします。

Q 11月26日の講演には何人くらいの現地エージェントの代表者たちが受講しますか?また、どんな中身の講演となるのですか?

筆者 そうですね、基本的には日本の外国人労働政策の現状と今後について述べたいと思いますが、具体的な講演アイテムの1つとして、 ASEAN諸国で関心の高い技能実習法案のアウトラインと送り出し側の留意点を述べます。技能実習事業が制度化されて以来23年が経ちますが、専門法がで きるのは初めてです。それが成立して施行されると、実習生候補者を送り出す側と受け入れ側にどんな影響が出るのか?それを予想できる範囲で言及することに なります。
  影響はたくさん予想されますが、中でも一部の国の送り出しエージェント側が実習生候補者たちから法外に徴収している保証金は実習生たちの生活を圧迫し ているのですから、それを止めてもらうことも訴えたいと思います。技能実習制度を崩壊せしめるような措置を撤廃してもらうことも法案の狙いなのです。それ を知りつつ実習候補生たちを受け入れる側にも問題があります。
  もう1つは、実習制度の本来に立ち返って、実習期間の3年または5年を終了して彼らが母国に帰国した際に、送り出しに協力したエージェントが彼らに対 する再就職支援にもっと力を入れて欲しいとの要望もします。“実習といいながら実態は労働ではないか”との声もありますが、法律となる以上は改めて制度の 目的に合致した動きを期待したいのは当然です。


法令施行3年で流れは変わる


  Q 実行可能だと思いますか?

筆者 それには日本政府側の各国への粘り強い働きかけが必要ですが、民間レベルでも努力すれば可能だと考えています。ご承知のように、 1986年7月に施行された労働者派遣法でも同じでした。施行に際して多少の混乱はありましたが、施行3年目の見直しを迎えるまでに新生人材派遣業界はず いぶん整理されました。
  日本人材派遣協会など関連業界団体も発足して、会員化を促進させて啓発するなど労働者派遣制度が浸透しました。その一方で、法令と実態のミスマッチに ついても業界団体が音頭を取って理性的な方法で行政サイドに改善を要望しました。それは、やはり、新法施行の良い影響だと言えます。技能実習事業において も同様で、法施行から3年が経てば新制度はずいぶん浸透すると思われます。新規参入の協同組合が技能実習生の受け入れを適正に行えば、労基法違反などの旧 組合の一部の対応は変わらざるを得ません。受け入れ側が改善すれば、当然、実習生候補者の送り出し側にも影響が波及して変わると思います。

  Q 他にどんなことを講演されますか?

筆者 過去のこのコラムの中で何回か述べていますが、日本の人口減少の実情を紹介し、日本政府が採ろうとしている外国人受入れ政策の実際と 今後について述べたいと思います。私は何も政府の代弁者ではありませんが、国が関係法令で規制している以上適正に紹介するのは私の義務です(笑)。
  それと、講義の進め方ですが、私が今年の1月29日、マニラのアレリアーノ大学の学生たち向けの講義に使った「日本講座」のパワーポイントを使って説 明します。その中に今回講演するいくつかの新しいテーマを加えたいと思います。その中で、人口減少が長期化する日本の労働市場の変化を2つに分類します。


東京五輪以前の5年間と以後の5年を展望する


  1つは、2020年の東京五輪開催までの5年間、もう1つは、閉会以後の5年間です。五輪は国の威信を賭けたビックイベントです。メインスタジアム建 設と五輪エンブレムなどで混乱しましたが、待ったなしの突貫工事がこれから始まります。それに向けての外国人のtemporary worker(guest worker)の導入は十分予想されます。
  そして五輪終了後の日本では、労働力不足が深刻化して克服が課題となるでしょう。戦後のベビーブーマーと称せられた団塊の世代後期高齢者となり、大 部分が要介護者となっているのです。しかし、それに続く各世代では“団塊ジュニア”を除いて順次減少します。介護現場もこれからピークを迎えるがやがて下 り坂となるので、その数年の穴をどのように埋めるかが政治的課題です。つまり、早晩、日本はASEAN諸国の友好国からのtemporary worker(guest worker)のサポートが必要になると予想します。
  政府は人口減少の歪を埋めるべくさまざまな施策に取り組んでいますが、今後10年を以上のように概観すると、賛否を別として、外国人労働者の受け入れに関して大胆な政策転換を図らなければいけないと予想します。


ASEANでの日本ファンを増やす必要がある


  Q 当面、どうすればよいとお考えですか?

筆者 そうですね、ASEAN諸国における日本ファンを増やすことです。少子高齢化の問題を抱える国は、日本以外に韓国、台湾、香港、シン ガポールなどです。それに対して人口が多く労働力を供給できるのは、インドネシア、フィリピン、ベトナムミャンマーなどです。以前のコラムでも述べたよ うに、大げさな言い方となりますが、10年後にこれらの国々で労働力の“争奪戦”が始まるでしょう。当然、日本で働きたいという人たちを増やす努力が必要 です。
  それには、日本語の習得だけでは不十分です。日本の歴史と文化や慣習、生活習慣、企業での働き方、簡単な労働関係法令、趣味と娯楽などを紹介しなが ら、日本ファンを増やす努力が必要なのです。我田引水のようで恐縮ですが、筆者が進めている「日本講座」をASEANの若い人たちに広めることが必要で す。

Q フィリピンにとどまらないということですね?

筆者 それは当然です。ベトナムインドネシアも視野に入れなければなりません。


(この記事は、月刊人材ビジネス2015年10月号に掲載されたものです)